第二に誤診の問題がある。
すでに話したように、健診も人間ドックも本来は健康な人を対象とする。
だから、少しでも異常な所見があれば、それを過大に評価しすぎるきらいがある。
それでも精密検査を受け、それで異常がなければ、たいした害はないかもしれない。
だが、ガンでない病気をガンとまちがえられることだってある。
実際の例として、肺の寄生虫症を肺ガンと誤られて手術を受ける羽目になった人を紹介した。
そうした例は結構ある。
たとえば、減少したと思われがちだが、最近では肺結核が復活している。
高齢者やホームレスなど、栄養状態の悪い人などを中心に、結核にかかる人がいる。
そして、そうした人からツベルクリン反応が陰性の人に感染してしまう。
ときとして、肺結核のレントゲン所見と肺ガンの所見がまぎらわしいことがある。
それでも肺結核を専門としてきたベテラン医者は誤らないかもしれない。
だが、あまり結核患者を直接に診察した経験のない若い医者は、肺結核のレントゲン写真を肺ガンだと誤診する事がある。
あげくに、肺ガンの精密検査が繰り返されたり、肺ガンとして手術を受けたりしかねない。
すぐに結核とさえ診断されれば、結核の治療がおこなわれて早くよくなるはずなのに。
そして、第三として、さらに重要な落とし穴は、せっかく受けた健診でもガンを見落とされてしまう危険性すら潜んでいることだ。
ガンとともに国民にとって重要な病気が心臓血管の病気である。
従来の野菜・魚を中心とした日本食から、肉食中心の食生活になるなど、生活の欧風化が進むとともに、動脈硬化症が確実にふえてきている。
動脈の壁に脂肪がつき、血管が硬くなってしまう。
それとともに血管の中に血栓ができやすくなる。
この結果、動脈の中で血液の流れが悪くなる。
こうして起きる病気が、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患と呼ばれる心臓病だ。
まだ試験段階ではあるが、こうした技術を改良すれば、健診によるガンの見落としは減るであろう。
れてきている。
ごく小さなガンは、いくらベテランの医者が眼を凝らしても発見できないことはある。
ましてや、大勢を対象とした健診では、判定そのものの時間にも制約があり、診断できる確率はさらに低くなる。
すでに紹介したが、ごく早期の小さな肺ガンをも発見するために、コンピュータの応用が試されてきている。
肺ガンの専門医が見抜けなかったごく小さな肺ガンをもコンピュータが発見できることがある。
もちろん心臓以外にも病気は起こる可能性があり、脳梗塞や足の循環不全なども起きてくる。
このように、動脈硬化はこわい病気である。
さて、心臓の病気として最近重要になっているのが、虚血性心疾患だ。
ほかに心臓病としては、心房中隔欠損症などといった先天性の心臓奇形や、僧帽弁狭窄症などの心臓弁膜症、あるいは不整脈などといった病気がある。
健診や人間ドックでは、医者が心臓の音を聴診したり、心電図検査、心臓エコー検査が主としておこなわれる。
これらの検査では、心臓奇形、心臓弁膜症、不整脈などは比較的簡単に診断できる。
心臓奇形や心臓弁膜症では特有な雑音が心臓の聴診で聞こえる。
さらに心臓エコー検査では、弁膜の動きや血流に異常が見られ、正確に診断できるのだ。
が、問題は虚血性心疾患である。
心電図検査や心臓エコー検査で異常がみつかり、診断できることはもちろんある。
しかし、ふだんは血液の流れにさほど支障がなく、発作的に血流がとだえて狭心症を起こしたり、ひどいと心筋梗塞を起こすことがあり、これらを事前に予知することは意外とむずかしい。
ふだんの心電図検査や心臓エコー検査ではまったく異常な所見の見つからないことがあるからこうなると、一般の健診や人間ドックで運動負荷試験をおこなうには限界がある。
心臓ドックなどといった特殊な人間ドックでしかおこなわれていないのが現状である。
本来ならば、心臓病の中でも、狭心症や心筋梗塞をもっとも予知したい。
それが通常の健診や人間ドックでは発見できないことがある。
このように、心臓病の診断においても、健診や人間ドックでは診断できない病気のあることを知っておきたい。
狭心症などを診断するためには、運動負荷試験がある。
これは、自転車のペダルのようなものをこいだり、動く歩道を歩き、その状態で心電図検査などをおこなうものだ。
こうした運動をおこなうと、運動にともなって必要になる心臓への血液の要求に応じることができず、狭心症の心電図所見をとる。
こうして、狭心症を診断できる。
もっとも、このような運動負荷試験は、まれではあるが、運動負荷によって実際に心臓発作を起こし、危険なことすら起きうる。
そこで、万全の態勢で検査をおこなう必要がある。
つまり、いざというときに備えて救急処置ができるよう、設備やスタッフをそろえておかねばならない。
健康人なら、ブドウ糖が吸収されればある程度は血糖値が高くはなる。
しかしすぐに血糖値を下げる役目をするインスリンというホルモンが分泌され、元の値に戻る。
糖尿病の人では、血糖値が高くなりすぎ、しかもインスリンが十分に働かない。
だから、なかなか血糖値が元に戻らない。
正常ではないが、さりとて糖尿病ともいえない中間の人もいる。
そういう人は境界型とされ、いわば糖尿病の予備軍ともいえる。
さて、健診や人間ドックでは、たいていこのブドウ糖負荷試験がメニューに入っている。
しかし、この検査が本当にすべての人に必要なのだろうか。
これも食生活の影響があるのか、糖尿病もふえている病気の代表である。
推計によると、わが国では六○○万以上もの人が糖尿病にかかっているとされる。
糖尿病を診断するには、尿と血液の検査が重要である。
尿に糖が出たり、血糖値がふつうの人より高くなっているのが糖尿病の特徴だ。
糖尿病を確実に診断するために、ブドウ糖負荷試験という検査がある。
これは、ブドウ糖を含んだ液体を飲み、時間を追って尿中の糖の出現と血糖値を調べるものたしかにたいした副作用はない。
だが、糖尿病の中にインスリン依存型糖尿病というタイプがある。
このタイプの糖尿病では、いきなりブドウ糖負荷試験をおこなうと、ブドウ糖が吸収されてしまって血糖値が高くなりすぎ、意識が障害されることだって起こりうる。
どんな検査でもそうだが、思わぬ危険が潜んでいる。
十分な用心が必要だ。
また、糖尿病は、何も食べていないときの血糖値が一四○唾/印以上、食べているいないにかかわらず血糖値が二○○唾/α以上であれば、その時点で糖尿病と診断される。
こうなれば、あえて面倒なブドウ糖負荷試験をおこなう必要はない。
病院で検査を受けたら血糖値が二一○噸/即あった。
糖尿病だといわれたが、念のために人間ドックに入ってブドウ糖負荷試験を受けたい。
こういう人をときおり見かける。
しかし、血糖値が二○○唾/伽を超えていることですでに糖尿病と診断できる。
それをあえてブドウ糖負荷試験をおこなうことはない。
検査は受ければ受けるほどよいという考えは成り立たないわけだ。
ブドウ糖を飲むくらい(実際には七五グラムを飲む)、なんていうことはない。
こう思われがちだ。
戦前は結核などの感染症で死亡する人が多かった。
それが抗生物質の開発で感染症は治るようになり、死因としては減ってきた。
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